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不貞行為に関する慰謝料
夫が不貞(不倫)をしたことを理由として、慰謝料請求をするというケースは非常に多くあります。
民法上、夫婦は、互いに相手に対して貞操義務を負っています。
したがって、夫が不貞(不倫)を行った場合、配偶者に対して慰謝料請求することができます。これを「離婚慰謝料」と言います。
加えて、不貞相手に対しても、不法行為に基づく慰謝料を請求することができます。これを「不貞慰謝料」と言います。
以上の2つを区別して考えることがポイントとなります。
したがって、夫が不貞(不倫)を行った場合、次の請求をすることが可能となります。
① 夫に対する離婚慰謝料
② 不貞相手に対する慰謝料請求
③ 上記①と②を同時に請求
慰謝料の金額
夫に不貞行為があった場合に、請求できる慰謝料はどのくらいになるのでしょうか。
事実上の相場はありますが、ケースバイケースであって、一概には言えません。
実際には、150万円~300万円程度が平均的と言えます。
具体的には、①有責性の程度、②婚姻期間、③お子さんの有無や年齢、④不貞行為の期間や頻度等、⑤夫の資力、⑥不貞に至った経緯、不貞発覚後の経緯など、様々な要素から判断されます。
簡単に言ってしまえば、①不貞行為が配偶者の親友との間でされている、②婚姻期間も長期に及ぶ、③お子さんがまだ小さい、④不貞行為の期間が長期に及び、頻度も多い、⑤夫に経済力がある、⑥不貞行為が発覚した後にも不貞行為を辞めないといったケースであれば、当然、慰謝料の金額も高額になります。
夫に対する離婚慰謝料請求と、不貞相手に対する不貞慰謝料請求を同時に請求する場合、慰謝料の金額はどのようになるのでしょうか。
この場合、夫と不貞相手の二人に対して慰謝料を請求するからといって、請求金額が2倍になるわけではありません。二人は不真正連帯債務と言って、例えば慰謝料300万円が相当であるとするならば、夫と不貞相手の二人で300万円とされることとなります。
ですから、例えば、夫が300万円全額を支払った場合には、それ以上、不貞相手に対して慰謝料を請求することはできなくなるのです。
なお、不貞行為があったものの、夫婦関係が修復された場合であれば、離婚しないわけですから、夫に対して離婚慰謝料を請求することはできないこととなります。この場合でも、不貞相手に対する不貞慰謝料請求をすることは可能です。
慰謝料請求の証拠
慰謝料を請求するには、まず事実関係と証拠を確認することが大切です。
夫の不貞行為を発見した場合には、発見した証拠を大切に保管しましょう。
争いになった後、不貞行為をしていないといった反論をすることは非常に多いです。言い逃れをされないよう、証拠を保管することが大事です。
一口に証拠と言っても、多くのものが考えられます。
探偵の調査報告書が典型ですが、探偵の調査報告書があるからと言って安心はできません。仮に裁判になった場合にも証拠として十分なものか、早期に弁護士に相談しましょう。仮に探偵の調査報告書が不十分であった場合には、再度の依頼や他の方法を検討する必要があることとなります。
他の典型的な証拠と言うと、例えば、メール、ライン、写真、ホテルの領収書、SNS、日記、念書など本当に多種多様のものがあります。いずれにしても、これらの証拠を紛失したりしないよう大切に保管しましょう。
慰謝料を請求する方法
次のような方法があります。
① 夫や不貞相手と話し合う
② 弁護士を通じて交渉する(内容証明郵便で通知書を送付するところから始まります。)
③ 話し合いが困難な場合は、請求する相手によって手続が異なります。
・夫に対する離婚慰謝料は、「離婚調停」、「離婚裁判」となります。
・不貞相手に対する不貞慰謝料は、「民事調停」,「民事訴訟」が考えられます。
実務的には、夫に対する離婚訴訟と、不貞相手に対する慰謝料請求を、離婚訴訟に一本化(併合)して請求することが多いです。これは、離婚訴訟まで至ると、離婚が成立する可能性が高く、ゆえに慰謝料の金額が高額とされやすいことが影響しているものと考えられます。
婚姻関係の破綻?
不貞をした配偶者と不貞相手に慰謝料を請求できるのは、不貞行為が婚姻関係破綻より前であった場合に限られます。つまり、婚姻関係が破綻した後の不貞行為であった場合には、慰謝料請求はできないこととなります。
そのため、不貞慰謝料のケースの多くにおいて、不貞行為は、婚姻関係が破綻した後であったという反論が出てきます。
では、「婚姻関係の破綻」とは、どのようなことを言うのでしょうか。
「婚姻関係の破綻」とは、夫婦の一方または双方が永続的な精神的肉体的結合を目的として共同生活を営む真摯な意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実態を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至った場合を言うものとされています。
「婚姻関係の破綻」については、具体的には、夫婦双方の婚姻関係継続の意思の有無、別居の期間、家計の負担状況、精神的・肉体的接触の有無など、様々な事情から判断されます。
ですから、何年も前から離婚したいと思っていたという主観的な事情だけでは、婚姻関係破綻とは判断されません。また、以前から夫婦生活がなかったという性的な関係のみでは、やはり婚姻関係破綻とは判断されません。
「婚姻関係の破綻」が認められる例としては、長期間に及ぶ別居などが挙げられます。
実際の裁判でも、同居していた夫婦であれば、「婚姻関係の破綻」が認められる可能性は相当程度低いです。